皆さんこんにちは、あにきです^^
30年以上前の出来事。
蒸し暑いとは言っても、
今程の暑さは感じていなかった6月。
夜の7時半から9時の間はとても憂鬱で、
毎日が滅入る様な日を過ごしていた。
というのも、その時間は習い事の時間で
走りたくもないのに
走らなければいけなかったからだ。
俗にいう長距離走。
しかも、教えているのは実父。
別に競技者でも経験者でもないのに、
何で父が教えていて、
どうして自分がやらなきゃいけないのか
全く理解が出来なかったが、
気が付いたらやらされていて、
逆らう事は無駄な生活を続けていた。
走る場所は自宅から徒歩5分ほどの公園で、
割と急な坂を登り切った上にある。
ある夜。
19時半近くになり、
家を出て公園へと向かい始め、
登り坂の途中でふと人影が
目に飛び込んでくる。
坂の途中には墓地があり、
所謂、霊園なので誰でも入れるし、
これと言った目隠しも無ければ、
夏至も近いのでまだ明るさが残っており
普段以上によく見えるのだが、
霊園中央敷地端にある拝堂の前に、
肩までの白髪で、
腰の少し折れ曲がった年寄りが一人
立っている。
時折、
夜に墓参りしている人が居たりはしたが、
主に彼岸などの時期だったりしたので、
珍しく思えたし何よりも装いというか、
出で立ちが少し妙だった。
墓参りであれば、
何かしらの道具を手に持っていたりするし、
手ぶらで歩くという人は
昼でも中々見かけない。
他に連れの人も居ない感じなので、
ひとまずは、
「(おさんぽ婆ちゃんか...)」
という事にして、
その時は意識から片付けておいた。
苦痛の90分が終わっての帰り道。
今度は来た道を下って帰る。
おさんぽ婆ちゃんの事など、
とうに忘れていたが、
霊園に差し掛かった時に半ば無理やり
思い出すことになる。
何気なく視線を霊園に向けた時、
あの婆さんが、立っていた。
しかも、
微妙に立っている位置が変わっていて、
拝堂の前ではなく、
少しこちら側の墓を眺めているというか、
覗き込んでいる様子。
日常的とは言い難い光景を
目の当たりにして、
前を歩いている父に話そうかとも思ったが、
どうせ馬鹿にされるのが目に浮かぶのと、
この世で一番弱みを
見せたくない存在でもあるので、
強張りながらもグッと堪えて帰宅した。
翌日も同じ時間に歩いて出かける。
歩き始めると昨夜の事を思い出す。
「(居たら気持ち悪いな…)」
と、思いながら坂を登り始め、
中腹まで差し掛かった時、
霊園に目線を移してみる。
居た。
昨夜と同じ様相で、婆さんが立っている。
内心ではガッツリ驚きながらも、
波風立ててはいけない気がして
声に出すのは憚った。
帰り道は昨夜とは違い
忘れている事などなく、
寧ろ気になってしまい覚えていた。
微妙に堅い挙動をする身体を制御しながら、
霊園へ差し掛かったその時に婆さんはいた。
が、ここで子供ながらに一つ気が付く。
近付いてる。
昨夜、最初に見掛けた場所から比べると、
少しずつではあるが、
こちらの道路側に近付いてきてる。
行きの時にも少し気にはなったのだが、
この時の様子で確信が持てた。
間違いなく近付いてきてる。
この婆さんは何が目的で、
そもそも何をしているのかすら
分からないが、
近付いてきてるという事実だけは、
10歳の自分の脳内にも正確に
植え付けられた。
ここから数日間、
厳密には5日間だったが、
婆さんは徐々にこちらへと
近付いてきていた。
どうして5日後だと
断言出来るのかと言うと、
30余年が経った今でも
鮮明に覚えている出来事が起きた
という事と、
その日を境に婆さんが
居なくなったから。


